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小説版 『ヨコハマ買い出し紀行』に関して |
■ 小説版 『ヨコハマ買い出し紀行』 −見て、歩き、よろこぶ者− |
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執筆 2008年 10月23日 更新 2025年 05月14日 |
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【はじめに】 2008年 10月20日に 発売になった、 小説版 『ヨコハマ買い出し紀行』 −見て、歩き、よろこぶ者− (著 : 香月照葉さん)を、21日に購入し、 その日のうちに読破しました。 以下に、当作品のアレやコレやを 書きまとめてみたいと思います。 当然、ネタバレばりばり ですので、 小説を未読の方は、 ご購入・本編をお読みになってから ご覧いただければと思います。 小説の内容は なかなか丁寧なので、 ファンアイテムとしても 十分価値のある書籍ではないかと思います(^^ |
【大まかな導入】 未来の 中部地方 の 太平洋側で暮らす 少年型ロボット『オメガ』。 この時代に生き残った最後の人間にして 彼の生みの親・育ての親でもある 宇布見 の 死をキッカケに 一人ぼっちになった彼は、 その寂しさに恐怖し、 三浦半島 で 暮らすという ロボット『アルファ』に 会う決意をして 旅立つ。 しかし、数ヶ月を経て ようやく出会った彼女の肌は、 すでに 冷たくなっていた。 孤独の中で彼は、 「ロボット同士であれば 記憶の伝達が可能」 だという 宇布見の言葉を思い出す。 アルファと舌で接続し、 彼女の記憶を辿る旅 に おもむいたオメガが、 そこで見たものは… |
【感想 1】 「漫画内で解き明かされなかった謎に 決着がついている」という 前評判を聞いていたので、 正直 かなり緊張して 読みました(苦笑) 内容は、基本的には 漫画で描かれた話を 小説というメディアで 再表現したものが大半ですが、 「あの場面を小説で表現すると こうなるのか!」という、 自分の視点が変わったような 新鮮な驚きもありました。 漫画内では(多分 意図的に)ぼかされていた、 『タカヒロが抱いていた アルファへの思い』 『Aタイプの正体』 『人類減少の原因』 『初瀬野先生の人物像』 『子海石先生の死に際』 『アルファさんの本来の機能』 なども描写されており、 「ヨコハマ〜」に 牧歌的な 楽園 を 求めている類の読者にとっては、 やや ショック の 大きい内容かもしれません。 が、ちょっと想像すれば 「当然 そうなのだろう」と思われる 事柄ばかりなので、 この小説によって そうした 長年の予想に 決着がついた という思いを抱くファンも 多いのではないでしょうか? |
【感想 2】 僕が一番 決着感 が 大きかったのは、 やはり『Aタイプの 正体』でした。 自分で こういう物 も 書いてますし、 当作品 最大の謎 との思いも 強かったのです。 ただ、自分なりの Aタイプの考察 をまとめた後、 どこかの掲示板で 「A1〜A5は、それぞれ 五感に関する研究だと、 作者さん自身が口にしていた」という 書き込みを見たこともあったので、 自分の考察は あくまで「個人の お遊び」という 開き直りで読むこともできました。 (ここまでハッキリ書かれてしまうと やはり ちょっとヘコみますが…(笑)) |
【感想 3】 また、小説版で最も深く描写されているのは、 『タカヒロが抱いていた アルファへの恋心と、 その後、彼女から距離を置こうとする 苦渋の決意』 だと思います。 原作では最終的に マッキ と 所帯を持った タカヒロ ですが、 漫画では 「ロボットとは とても思えない人間らしさ」 をもって描かれている アルファさんが、 小説版では「とても人間らしいけど、 どこか 人間とは異なる視点を持った生き物」… つまり、原作以上に ロボット として描写されているため、 それを自覚したタカヒロが 自ら距離をあけるために 遠い ハママツ に 旅立つという、 寂しい一方で、いい意味で リアリティを増した話になっています。 |
【感想 4】 惜しいのは、 オメガ の 親である『宇布見』の 人物像の掘りこみが浅い と感じられた事… 「最後の人類」という孤独の中で 宇布見の心が固くなってしまった という 「結果」には リアリティはありますが、 彼の それ以外の面を知らない読者にとっては、 物語の最後で唐突に オメガの思い出だけで 彼の 別の面の片鱗 を語られても、 序盤でついたイメージを覆すには量不足… 「いきなり そんなこと言われてもな…」 という戸惑いがあります。 例えば 物語途中に、 アルファさんから引き出した記憶の内容 に 少し関連づけるかたちで、 『宇布見についての 断片的な記憶』を オメガが回想する場面をはさんでみても 良かったのではないでしょうか? そうした場面を何点か挿入することで 読者に「宇布見の 追加情報」を与え、 同時に読者は、 宇布見の「かつての性格」を 推理する並列的な楽しみ を得て、 最後の最後にオメガと共に、 「こんな時代でなければ 素直に花開いたかもしれない、 宇布見の心の資質」に 思い至ることも できたように思うのです。 |
【感想 5】 ちなみに、 原作における2〜3の話を一塊にして 印象深いエピソードに再構成 しているため、 漫画版と比べて時系列が おかしかったり、 一般的なファンの解釈と やや異なる部分 もあります。 また、登場人物が かなり絞り込まれており、 ココネ や マッキ など 原作で重要な位置を占めた一部のキャラが 全く出てこない という、 思い切った構成になっています。 その分、残った主要キャラの掘り込みが さらに深くなっています が、 ココネなどに感情移入して 読んでいたファンにとっては、 自分の居場所が無くなったような 寂しさを感じる かもしれません。 |
【新たな地名】 | |
★ 東の岬 ヨコハマ世界は、三浦海岸 付近を中心に東西南北で 土地の 俗称(西の岬など)が ついているようですが… 当作品では、アルファさんたちが 初日の出を 見に行った場所が『東の岬』と 表記されています。 この場所は ファンの間では「城ヶ島 公園」と 考えられていますが、城ヶ島は 三浦海岸の 南 … ちょっと矛盾します。 (もしかして漫画内の場所も、実は城ヶ島ではなかったのかな?) でも、初日の出を見に行く途中にあったような 大きな橋 は、「ポストカードブック」の地図で見ても、 城ヶ島の近くにしかありません。 強いて言えば 鴨居島(現在の 観音崎)が ちょうど東に位置し、近くに橋もありますが、 現実の あそこは アップダウンの はげしい地形 で、 漫画内のような広場とは ちょっと縁の無い場所です。 やはり、『東の岬 = 城ヶ島公園』と 解釈すべき なのでしょうね。 ★ 千葉大島 「東の岬」から見た初日の出は、この島の上から 昇ってきたそうです。 名前から想像のつく通り、現在で言う 房総半島 で、 夕凪時代の海面上昇によって関東平野から分離した、 全長 100キロ、長さだけでも 佐渡島 の 倍近い、 オリジナルの 大島 が はだしで逃げ出す 大大島です。 ★ 宇布見 これは正確には 作中に登場する地名ではなく、 オメガ を 創った老齢(と思われる)の男性科学者の 苗字 ですが… 実は、同名の町が 浜松市 の 浜名湖 の 東に実在します。 ハママツ(浜松)は 夕凪時代の一大都市… 彼の名前の由来 と思われます。 ![]() (ちなみに、小説カバーでは「宇布美」と 記述されています。 が、これは誤植ぽいですね…) |
【謎の判明】 | |
★ 怒りの日 人類の大半が死滅し、大規模な海面上昇を引き起こした 事件を、作中では『怒りの日』と 称しています。 その原因としては、温暖化 や 地球規模の地殻変動 が これまでのファンの間での主流意見でしたが… 「直後に 灰色の雪(死の灰?)が降ってきた事」 「子供を残す機能が失われた事」などから、 核戦争や 核施設の事故 であったと推測されます。 ★ Aタイプ A1 の 視覚 に 始まり、A6 の 心 までに蓄積した ノウハウを統合したのが、アルファさんたち 『A7』の人型ロボット だそうです。 しかし その多くは、老いたりケガをした人間の 体機能の 代替パーツ としてバラされてしまった とか… ★ ミサゴ 実は やっぱり ロボット だったそうです。 えーー…(困惑) アヤセさん、推理ハズれましたな。 お互いに…(泣) ★ ターポン これは大方の予想通り、 正体は DNAバンク であったようです。 遠い将来、地球環境が再び落ち着きを取り戻したときに、 DNAの解析による各種の動植物の 復元 を期待しての、 方舟(はこぶね)なのでしょう。 ただし、水没した地上には、 すでに その復元施設も存在しないはず… 遠い未来における 未知の 地球外知的生命体 の到来 に 望みを託すような、ワラにもすがる儚い方舟 とも 言えそうです… ★ ロボットの役目 関わった人間の心までも記憶する、 『ストレージ(記憶媒体)』だったそうです。 小説の序盤で、なんとなくピンときた方も 多いのではないでしょうか? 人の形を成す設計図(DNA)は「ターポン」に… 心は 「アルファさん」たちロボットの人 に記憶させ、 その2つの材料が いつか安定した地上で再会するとき、 (一部の)人間の完全な復元が成されることを 期待した のでしょうが… これも、なんとも儚い 一縷の希望 と言えそうです。 |
【総評】 | |
当初は「アルファさんが死んでいる」という前情報に
ショックを受けたファンも多かったようですが、 実際のところは ああいう事 だったため、 読了後に一気に好印象の感想が増えたように、 ネット上を見るかぎり感じられます。 (2008/10/23 現在) 文章もムダが無く、軽快。 全14巻の中で語られた歴史を、 一部の登場人物に関して追体験しつつ、 プラスアルファを楽しめる内容の1作だと思います。 書き手である 香月照葉さん は、 ちゃんとコミックスを読み込んでいるなぁ… と、 ヨコハマファンの1人として実感しました。 繰り返しますが、 ファンアイテムとしての魅力は 十分かと思われます。 巻末に、連載終了後の唯一のヨコハマ漫画である 『峠』も掲載されており、未読だったファン(僕とかw) には さらなる付加価値となる事でしょう。 連載終了によって 知る人ぞ知る漫画 となりつつある 「ヨコハマ買い出し紀行」の小説なので、 早期に入手が困難になる 可能性があります。 もし まだ、あなたの手元に無いのであれば (ここまで読んだ人で、まさか そんな人はいないと思いますが…) お早めの購入をお奨めいたします。 |
2025年 5月14日 追記 実に 17年 の時を経て、 このページをスマホでも見やすいよう書き直し、 この文章を書いています。 2008年当時は まだまだ新参者で (サイトを開設して ようやく2年が経過した所でした) ネットの海に埋もれがちな うちのサイト・ページ だったため、 この 小説版 感想ページ も ネットの海に埋もれて ほとんど誰の目にも ふれていないものとばかり 思い込んでいたのですが… 先日 Twitter(X)で 他人さんの投稿を読んでいた所、 「ヨコハマ買い出し紀行の小説について ネット検索すると、うちのページが かなり上位に来る」ことが判明… これはさすがに 昔のまま (CSS未対応・レイアウトも崩れる)では マズいだろう… と、 大あわてで1週間を費やし、 小説関連のページを整備した次第です。 当時「ファンアイテムとして 持っておいた方がいいですよ? すぐに値が上がるだろうし…」 と 書いていた自分ですが、 悪い意味で予測が当り、 2025年現在、 小説版は 異様に高騰 していて、 メルカリ で 5000 〜 6000円 ほど… 駿河屋 や Amazon では、品切れか 2万 3万 といった狂った価格で 売られており、 とても気軽に勧められる書籍では 無くなってしまいました…(泣) 小説版 は たしかに「1つの結論」として 興味深い作品ですが、 それは 900円前後という 当時の値段だから言えることで、 5000円以上や 万単位の お金を払う価値が 十分にあるか? と 問われれば さすがに僕も うなずけません。 本当に お金に余裕があり、 ヨコハマアイテムなら全部そろえておきたい! というヘビーユーザー 以外には お勧めできないというのが、 現時点での正直なところでしょうか? (決して悪い作品ではないのですが…) |
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